novel

02

土曜の朝の、ボックスボイテル。      
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同居人は薄い本を膝に置き、
ひとりで、ワインを飲んでいた。
夜が明ける直前に、開栓したのだろう。
短い廊下を歩くあいだ中、
ほの甘く、ほろ苦いシルヴァーナ種の匂いが、
私の鼻孔を擽り続ける。
同居人は私を見ないまま、「また寝る」と言った。
私の行動予定を尋ねているのか、
それとも、
自分の行動予定を告げているのか。
語尾がほんの少し上がったのを感じ、
私はベッドには戻らず、同居人の左側に腰を下ろした。
それが答えである。
同居人はやはり私を見ないまま、
「まだ飲む」と言った。
自分の行動予定を告げているのだ。
テーブルの上のワインボトルは、
ボックスボイテルのかたちをしている。
フランケン地方の辛口の白。
同居人の好みである。
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