novel

03

景色を、見る。     
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朝日が空に上がってきたらしい。
プリーツスクリーンが淡い乳色に染まりはじめた。
同居人は読んでいた本を床に置き、
私の背中に軽く触れ、
立ち上がり、窓を八糎ほど開けに行った。
部屋に風が入ってきた。
本のページが後戻りする。
私は慌てず、読みかけだった見開きの、
ノンブルを記憶しておく。
同居人は戻ってこない。
ベランダへの掃き出し窓から、
さしてよくない視力で遠くを見ている。
私は大きく伸びをして、
仕方ない、という風情で同居人の横まで移動した。
ふたりの目線の差が、
見える景色を違うものにしているだろう。
私はそう思い、何か言いかけ、
そして、やめた。
同居人は私に、グラスを持って来て欲しいのだろう。
けれど、私がそうしないことをわかっている。
 
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